人を奪わずに人を育てる経営

マインド

経営において最も大切な資産は「人」です。
どれだけ優れた戦略や立地を持っていても、それを動かすのは人材であり、人材なくして事業の持続はあり得ません。しかし現代のビジネスの現場では「人を奪う」か「人を育てる」か、この二つの姿勢が大きな分かれ道となっています。


人を奪う経営の実態

人を奪う経営とは、他社から即戦力を引き抜いたり、短期的な成果だけを求めて人材を使い捨てにするやり方です。
表面上は効率的に見えます。教育に時間をかけず、すぐに成果を出せる人を採用すれば、短期間で業績を伸ばすことができます。しかし、この方法は次のようなリスクを伴います。

  • 定着しない:奪われてきた人材は、また別の会社へ流れていく傾向が強い。
  • 不信を生む:業界内の関係性を損ない、同業者からの信頼を失う。
  • 文化が育たない:教育を放棄すると、自社の理念や価値観が浸透しない。

つまり、「人を奪う」経営は未来を削り、短期的な結果と引き換えに長期の信頼を失うやり方なのです。


人を育てる経営の価値

一方で、人を育てる経営は時間もコストもかかります。新人教育には数年単位の投資が必要であり、その間は売上に直結しないことも多いでしょう。
しかし、その積み重ねは次第に大きな価値を生みます。

  • 辞めない人材が育つ:時間をかけて育てられた人材は会社に帰属意識を持ち、長く貢献してくれる。
  • 顧客の信頼が高まる:スタッフが定着することで顧客に安心感を与え、リピートにつながる。
  • 理念が浸透する:教育の過程で理念や文化を共有でき、組織全体が同じ方向を向ける。

人を育てる経営は非効率に見えて、実は最も効率的な経営手法なのです。


サロン業界における人材育成の意味

美容やサロン業界は特に人材依存度が高い業界です。
最新の設備や広告があっても、最終的に顧客が信頼するのは「人」です。そのため、スタッフが辞めずに成長し続ける仕組みを持つ会社は、顧客からも「安心して通える場所」と評価されます。

また、新卒から育てることで、その人材は技術だけでなく「会社の色」を身につけます。教育の過程そのものがブランドを形成し、他社には真似できない価値を生み出します。


人を育てるための3つの仕組み

1. 明確なキャリアステップ

「アシスタントからスタイリストへ、スタイリストから店長へ」といった成長の道筋を明示することで、本人が将来像を描きやすくなります。

2. 教育を業務の一部とする

教育を「余った時間でやるもの」ではなく「経営に組み込む業務」として位置づける。例えば、営業時間内にトレーニングを組み込む仕組みなど。

3. 成果をきちんと評価する

売上だけでなく、教育に取り組む姿勢や顧客との信頼関係づくりを評価基準に加えることで、会社全体に「人を育てることが価値である」という文化を浸透させる。


人を奪うのではなく、業界全体を育てる

経営者が「人を育てる」姿勢を貫けば、自社だけでなく業界全体の底上げにもつながります。
人材を奪い合うのではなく、教育を通じて新しい人材を輩出することで、業界そのものが持続可能になります。その結果、地域社会や顧客全体にとっても利益が還元されるのです。


まとめ

人を奪う経営は短期的な成果をもたらしますが、信頼と文化を失い、長期的には組織を弱体化させます。
一方、人を育てる経営は時間がかかりますが、辞めない人材、定着する顧客、業界からの信頼といった「見えない資産」を積み重ねます。

正道の経営とは、まさにこの「人を奪わずに育てる姿勢」です。
派手さはなくとも、10年後、20年後に組織が揺るぎなく存在し続けるための唯一の道と言えるでしょう。

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